1. 財産分与とは(目的と性質) 

  財産分与は、離婚に伴い、婚姻中に夫婦が協力して形成・維持した財産を清算する制度です。協議で決められ、まとまらなければ家庭裁判所の調停・審判で決めます(一般的説明)。
令和8年施行の改正では、財産分与の目的を「離婚後の当事者間の財産上の衡平(バランス)」として明確化し、考慮要素も条文上例示される方向になっています。

「分ける対象」になる財産・ならない財産

実務ではまず、財産を次の2つに仕分けします。
A. 分与対象(共有的に形成されたと評価されやすい)
・預貯金(婚姻期間中に積み上がった部分)
・不動産(持家・投資用含む。名義が片方でも対象になることが多い)
・有価証券・投資信託・暗号資産(婚姻中の増加分)
・退職金(婚姻期間中の勤務に対応する見込・確定部分)
・保険(解約返戻金相当)
・自動車・家財(高額品中心)
・事業用資産(実質的に婚姻協力で形成された部分)

B. 原則として分与対象外(特有財産と整理されやすい)
・婚姻前から持っていた財産
・相続・贈与で取得した財産(婚姻協力によらない)
・上記の「由来」が明確に立証できる部分 

原則:2分の1(いわゆる2分の1ルール)

  改正の説明資料でも、寄与(財産の取得・維持への貢献)は、就労収入だけでなく家事・育児等も含むため、原則として夫婦対等(2分の1ずつ)という考え方が示されています。

修正される典型(実務で出やすい論点)
・特有財産の混入(頭金は婚前財産、相続資金で繰上返済等)
・浪費・不当な財産減少(別居前後の不自然な引出し等)
・事業・会社持分(評価と寄与の議論が複雑化しやすい) 
実務の採用(超重要):名義ではなく「形成経緯」で見ます。
たとえば「口座名義が夫でも、婚姻中の給与から貯めたなら分与対象」になり得ます。

・ いつの時点の財産で計算する?

 
条文上は一律ではなく、実務では概ね、別居時または離婚時のいずれか(事案により)を「清算の区切り(基準時 」として、そこから財産目録と評価を組み立てます。
ここがズレると金額が大きく変わるので、実務では「いつから別居か」「家計が分離したか」「その後の増減は誰の寄与か」を事実で固めます。

令和8年(2026年)改正(財産分与に直結するポイント)

 ※この改正法は、裁判所の案内で令和8年4月1日施行とされています。
(1) 請求期間が「2年 → 5年」へ(超重要)
改正説明では、離婚後の財産分与の家庭裁判所手続(調停・審判等)を求められる期間が、離婚後2年から5年に伸長されます。
経過措置(施行日前に離婚した場合)
施行日前に離婚しているケースは、原則として従前(2年)が適用される、という整理が解説等で示されています(附則4条の説明)。
つまり「いつ離婚が成立したか」で期限が変わるので、日付確認は必須です。

(2) 家裁が考慮すべき要素の明確化
改正により、財産分与で考慮すべき事情が例示されます。実務でも使いやすい形で、例えば次のような要素が挙がっています:
・婚姻中に取得・維持した財産の額
・各自の寄与の程度(原則2分の1)
・婚姻期間、生活水準、協力・扶助の状況
・年齢、心身の状況、職業、収入

(3) 手続の利便性:財産情報の開示命令
改正説明では、財産分与の裁判手続で、家庭裁判所が当事者に財産情報の開示を命じられるようにして、手続をスムーズにする方向が示されています。
これについては下記にも具体的に掲載しています

・具体例:よくある算定イメージ

例)婚姻中の純資産を2分の1で清算
預貯金:600万円
投資:200万円
自宅:時価3,800万円/住宅ローン残2,800万円(純資産1,000万円)
保険解約返戻金:100万円

負債(カード等):▲100万円
純資産合計:600 + 200 + 1,000 + 100 - 100 = 1,800万円
→ 原則2分の1なら 各900万円が目安。
すでに妻が手元に現預金300万円、夫が500万円を持っている等の「現状」を踏まえ、差額を精算金(現金支払)で合わせる設計にします。
不動産が絡む場合の「採用されやすい解決パターン」
@ 片方が住み続ける:持分移転+代償金(ローン名義・借換の可否が鍵)
A 売却する:売却して残金を分ける(最も清算的で揉めにくい)
B 共有のまま:原則おすすめされにくい(紛争の火種が残りやすい)

・財産分与に関する書証の提出について

一般的に,財産分与の審理に必要とされる書証は次のとおりですので、提出してください。
財産によって評価時期が異なりますので、どの時点での評価額を明らかにする書証が必要とされているかを確認の上、準備してください。また,【別居時】とされている財産で、自らが主張する基準時が別居時と異なる場合は,自らが主張する基準時及び別居時の各時点での評価資料が必要となりますのでご注意ください。

1 不動産
□ 不動産登記事項証明書【現在】  複数件ある場合はすべての登記簿謄本(土地・建物)が必要です。
□ 固定資産税評価証明書【現在】  コピー可能
□ 査定書(固定資産税評価証明額と異なる価額を主張する場合)【現在】

2 預貯金
□ 預貯金通帳又は取引履歴(すべての口座)【別居時】 通帳の最終記入したもの
・ 表紙,表紙裏(口座番号,支店名の記載部分),定期,貯蓄のページを含む(定期,貯蓄預貯金が存在しない場合であっても提出が必要)

・ 特有財産(固有財産)と主張するものについても提出が必要

□ 取引履歴,残高証明【別居時】
・ 預貯金通帳がない場合や別居時前後に「おまとめ記帳」「合計記帳」等がされている場合

3 生命保険,共済
□ 保険証券(生命保険,学資保険,共済等)
□ 解約返戻金の証明書【別居時】
・ 解約返戻金のないものについても提出が必要
・ 保険証券に記載されている見込額では不可(個別に保険会社等に照会が必要)
4 退職金

□ 退職金が分かる資料【別居時】
・ 別居日に自己都合退職したと仮定した場合に支払われる金額が明らかにする書面(勤務先作成の退職金証明書, 退職金規程等)

5 自動車
□ 車検証(登録事項証明書)【現在】
□ 査定書等【現在】
・ 価値がないと主張するものについてはレッドブックでも可

6 有価証券等(株式,投資信託)
□ 種類,額面等が分かる資料
□ 評価額が分かる資料【現在】
7 負債(住宅ローン,自動車ローン等)
□ 住宅ローンの償還表又は残高証明書【別居時】
□ 自動車ローンの償還表又は残高証明書【別居時】

8 特有財産(固有財産)
□ 特有財産(固有財産)であることを裏付ける資料
・ 不動産→購入時の契約書,出捐を裏付ける資料預金通帳等
・ 預貯金→婚姻時の残高を示す資料・原資を裏付ける資料等
・ 保険→保険料の原資や支払期間を明らかにする資料等
・ 相続財産→除籍謄本,遺産分割協議書等
その他
□ 陳述書
・ 特有財産(固有財産)であることなど,格別の事情を主張する場合

・相手側が開示しない場合


令和8年(2026年)4月1日施行の改正民法では、相手の財産が不明な場合に活用できる「財産状況開示命令」という新たな制度が導入されます。
従来、相手が財産を隠している場合は、弁護士会照会や裁判所の調査嘱託といった手間のかかる手続きが必要でしたが、改正後はより実効性の高い手段が加わります。

1. 新設される「財産状況開示命令」
裁判所が相手方に対し、所有する財産の目録を提出するよう命じることができるようになります。
対象: 財産分与の調停や審判において、分与額の算定に必要な範囲の財産。
罰則: 命令に従わない場合や、虚偽の報告をした場合には、過料(過ち料)が科される規定が設けられ、心理的な強制力が強化されます。


2. 財産分与の請求期間の延長
財産分与を請求できる期限が、これまでの「離婚から2年」から「離婚から5年」へと大幅に延長されます。


これにより、離婚時に相手の財産が不明なまま見切り発車で離婚した場合でも、後からじっくりと調査・請求する余裕が生まれます。

3. その他の既存の調査手段(継続)
新制度に加えて、従来からの以下の手法も引き続き利用可能です。
調査嘱託: 裁判所を通じて銀行や勤務先などの第三者に情報提供を求める手続き。
弁護士会照会(23条照会): 弁護士が所属する弁護士会を通じて、金融機関などに情報の開示を求める制度。
第三者からの情報取得手続: すでに判決や調停調書(債務名義)がある場合に、裁判所を通じて金融機関や市役所から預貯金・勤務先情報を取得する民事執行法上の手続き。


今回の改正は、主に「子供の養育に関するルールの見直し」を目的としており、財産分与の不公平を是正するための透明性向上が図られています。

・民法第768条 その他関連法

(財産分与)
第七百六十八条 協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
2 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から五年を経過したときは、この限りでない。
3 前項の場合には、家庭裁判所は、離婚後の当事者間の財産上の衡平を図るため、当事者双方がその婚姻中に取得し、又は維持した財産の額及びその取得又は維持についての各当事者の寄与の程度、婚姻の期間、婚姻中の生活水準、婚姻中の協力及び扶助の状況、各当事者の年齢、心身の状況、職業及び収入その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。この場合において、婚姻中の財産の取得又は維持についての各当事者の寄与の程度は、その程度が異なることが明らかでないときは、相等しいものとする。

(夫婦の財産関係)
第七百五十五条 夫婦が、婚姻の届出前に、その財産について別段の契約をしなかったときは、その財産関係は、次款に定めるところによる。

(夫婦財産契約の対抗要件)
第七百五十六条 夫婦が法定財産制と異なる契約をしたときは、婚姻の届出までにその登記をしなければ、これを夫婦の承継人及び第三者に対抗することができない。

第七百五十七条 削除
(夫婦の財産関係の変更の制限等)
第七百五十八条 夫婦の財産関係は、婚姻の届出後は、変更することができない。
2 夫婦の一方が、他の一方の財産を管理する場合において、管理が失当であったことによってその財産を危うくしたときは、他の一方は、自らその管理をすることを家庭裁判所に請求することができる。
3 共有財産については、前項の請求とともに、その分割を請求することができる。

(財産の管理者の変更及び共有財産の分割の対抗要件)
第七百五十九条 前条の規定又は第七百五十五条の契約の結果により、財産の管理者を変更し、又は共有財産の分割をしたときは、その登記をしなければ、これを夫婦の承継人及び第三者に対抗することができない。

第二款 法定財産制
(婚姻費用の分担)
第七百六十条 夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。
(日常の家事に関する債務の連帯責任)

第七百六十一条 夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない。

(夫婦間における財産の帰属)
第七百六十二条 夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする。
2 夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する。