当社にお越しの方の大半は、家庭内の問題で悩んでおられます。
そして私は、相談の入口であえて、意地悪な質問をします。
「結婚とは何なんでしょう?」
「夫婦とは何なんでしょう?」
大半の方は「夫婦とは空気のような存在です」といった回答をされます。私はその答えを否定しません。むしろ、理想としては美しいと思います。
ただ現実には、そこで止まってしまうと危険です。
なぜなら、理想(イメージ)と、実務(法律上の権利義務)の間にギャップがあり、そのズレが争いを深くするからです。
家庭内の問題は、気持ちだけで解けることもあります。けれど、解けないときは必ず「法律の言葉」に変換されていきます。
調停になれば、調停委員に説明する言葉が要ります。審判や裁判になれば、裁判官や調査委員に理解できる形で整理し説明しなくてはなりません。
だから私はまず、法律で定められている「夫婦」の骨組みを、入口で一度きちんと説明します。
婚約は、簡単に言えば「将来結婚しよう」という約束です。
民法の条文に「婚約とはこうだ」と正面から定義されているわけではありません。しかし裁判の中では、婚約が成立し得ること、そして婚約が破られた場合に責任が問題になることが、長年の実務で積み重なってきました。
私はここを、こう整理しています。
婚約は、婚姻(結婚)の予約のような性質を持つ
だから婚約した者は、互いに将来結婚するよう努力する義務を負う
その結果、正当な理由なく婚約を壊した場合、状況によっては慰謝料などの賠償が問題になる
ここが大事なところです。
婚約は、当事者の一方の申し出で「婚約破棄」という形自体は起こり得ます。ところが、破棄の理由が正当でない場合は責任が生じる。
この状態は、“結婚中”と“単なる男女交際”のちょうど中間に位置している、と私は説明しています。
では、婚約を解消する正当な理由とは何か。
これはケースで変わりますが、一般的に整理しやすい例を挙げると、次のようなものです。
当事者同士の合意(双方が納得して解消する)
婚約相手の不貞(婚約中であっても、約束を壊す重大な事情になり得ます)
重大な虚偽(結婚の前提を根本から崩す嘘。学歴や経歴などが争点になることもあります)
暴力・強い支配・深刻なハラスメント(安全が守れない関係は、維持すること自体が無理になります)
婚約中の不貞については、結婚後の「貞操義務」と全く同じとは言い切れませんが、少なくとも「婚約という法的に保護され得る地位」を侵害した、と評価される余地が出てきます。
また状況によっては、婚約相手だけでなく相手方(第三者)の責任が問題になることもあります。
私はここで、読者の方に必ず言います。
“怒り”があるのは当然です。けれど、争うなら法律に落とし込む必要がある。
婚約は「気持ちの約束」でもあり、「責任が発生し得る約束」でもあるからです。
結納とは一般的に、結婚の確約に伴う儀式の一つで、婚約式とも言われます。
婚姻によって両家が親族として「結」びつくことを祝い、贈り物を「納」め合う儀式です。
よくある形としては、新郎側から新婦側へ、お金や縁起物の品を納める――という慣習があります。
ただし、結納はあくまで両家の私的な儀式であり、法律が「これをやれば婚約が成立する」「やらなければ成立しない」と決めているものではありません。
それでも結納が実務で大事になるのは、揉めたときに、
それは「単なる贈与」だったのか
「結婚を前提とした給付」だったのか
破談になった場合に、返す・返さないの争点になるのか
こういう形で“現実の問題”に変わるからです。
だから私は、結納を軽く扱いません。最初に位置づけを整理しておきます。
婚約の成立は、結納をしたかどうか、指輪を渡したかどうか、式場予約をしたかどうか――そういった形式だけで決まるものではありません。
中心にあるのは、当事者の男女二人が、「将来、夫婦になろう」 という合意をしたかどうかです。
つまり、極端に言えば口約束でも成立し得ます。
ただ、実務では「言った・言わない」になりやすいので、結婚に向けての具体的な行動(双方の親への挨拶、同居準備、式の準備、周囲への公表など)が積み重なっていると、婚約の存在が説明しやすくなる、というのが現場の感覚です。
交際や婚約は、自由な意思のもとで進められます。
一方で、婚姻(結婚)になると話が変わります。婚姻は、社会の中で「夫婦として扱ってください」と届出をして成立し、そこから先は権利と義務が動き出します。
ここを象徴しているのが、日本国憲法24条の考え方です。
婚姻は両性の合意のみに基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により維持されるべきだという骨格です。
私はここを、わざと強く言います。
一方が結婚したいと願っても、もう一方が嫌だと言えば、強制も強要もできません。
そして結婚した後も、男尊女卑や暴力で相手を押さえつけることは認められません。
夫婦は「同等の権利」を前提に、「相互の協力」で生活を維持する。これが法律の土台です。
婚姻すると法律上の効果が大きくかわってきます
① 貞操の義務が生じる→不貞の行為は離婚の原因となる
② 一つの戸籍を作り同性になる→離婚すれば旧制や新戸籍として登録される
③ 同居の義務が生じる→理由のない拒絶は離婚の原因となる
④ 扶助の義務が生じる→お互い同じ程度の生活を要求できる
⑤ 夫婦間の契約は自由に取り消しができる→離婚を前提とした契約は取り消せない
⑥ 夫婦生活の費用は分担する→無収入なら金銭の分担はない
⑦ 日常家事債務は連帯責任→相手に断っておけば責任はない
⑧ 自分の財産は自分のもの→夫婦の共有にはならない(特有財産)
⑨ 所属不明の財産は共有→ハッキリどちらのものかわかるものは共有となる
民法752条 夫婦の同居義務と扶助の義務
夫婦は同居し、お互い協力し、扶助し合わなければならない。
民法755条 夫婦の財産関係
夫婦が婚姻の届け出をする前に、その財産関係をどうするかについて特別の契約をしなかったときは第二款で決めた取り扱い(法廷財産制)によって処理する。
法定財産制とは
夫婦が 婚姻前に「夫婦財産契約(別の財産ルール)」を結ばなかった場合 に、法律(民法)が自動的に適用する財産ルールです。要するに 「デフォルト設定の夫婦の財産ルール」
です。
法定財産制のコア(結論)
日本の法定財産制は、実務的には次の2本柱です。
別産制(べっさんせい):原則、財産は「名義・取得状況」で夫婦それぞれに帰属
婚姻費用の分担:生活費などは、夫婦が資力等に応じて分担
このため、よくある誤解の「結婚したら全部共有になる」は基本的に違います。
① 別産制(原則:自分のものは自分のもの)
法定財産制の大原則として、次の2類型は その人の特有財産 になります。
婚姻前から持っていた財産(預金、不動産、株など)
婚姻中に得た財産でも、実質的にその人の固有といえるもの
例:相続・贈与で得た財産(原則その人の特有財産)
そして、誰の財産か不明なときは「共有」と推定される、という扱いもあります(ここが揉めやすいポイント)。
② 婚姻費用の分担(生活費は共同で負担)
婚姻中の生活保持(生活費・住居費・医療費・子の養育費など)について、夫婦は 資力その他一切の事情に応じて分担します。
別居局面では「婚姻費用分担請求(調停・審判)」として強く実務で出てきます。
③ 管理・処分(名義人が基本的に管理する)
別産制なので、原則は名義人が管理・処分します。
ただし、例えば日常家事に関する取引などは、夫婦間で問題になり得る論点があり、また「夫婦の協力義務」的な評価が入る場面もあります。
離婚時にどうなる?(ここが一番重要)
1、婚姻中は別産制でも、離婚時には
2、財産分与(清算)
3、慰謝料(不法行為)
4、年金分割(別制度)などが別枠で動きます。
つまり結婚中に「名義は夫」でも、実質的に婚姻期間中に夫婦の協力で形成された財産は、離婚時に 財産分与で清算され得ます。
ここを理解していないと、「名義が全部自分だから相手に渡さない」は通りません(逆も同じ)。
夫婦財産契約(法定財産制を外す方法)
婚姻前(原則)に 夫婦財産契約を結んで登記すれば、法定財産制とは別のルール(例:共有財産制に寄せる等)を設定できます。
ただし実務で一般の夫婦が採用するケースは多くはありません。
1分でわかる例
婚姻前に妻が貯めた預金:妻の特有財産
婚姻中の夫の給与が入った口座:名義は夫でも、離婚時に財産分与の対象になりやすい
婚姻中に相続で得た不動産:原則、相続した側の特有財産
別居したら:婚姻費用(生活費)を資力に応じて分担(請求できる)
同居・協力・扶助(752条)
夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない、という考え方です。
ここで大事なのは、単なる「一緒に住むべき」という話ではなく、夫婦として共同生活を成り立たせる責任がある、ということです。
生活費の分担(婚姻費用民法760条
夫婦は、資産・収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する、という考え方です。
つまり「家にお金を入れない」「生活が回らない」といった問題は、感情の問題であると同時に、法律上の義務の問題にもなります。
ここを知らずに別居を始めたり、別居中の生活費を感情だけで決めたりすると、調停や裁判で一気に苦しくなることがあります。
だから私は、入口で必ずこの二つを押さえます。
夫婦関係では、一般に「配偶者以外と性的関係を持たない」という忠実義務(貞操義務)が問題になります。
ただし、ここは注意が必要です。
法律は「貞操権」という言葉を条文にそのまま書いているわけではなく、婚姻制度(一夫一妻の枠組み)や夫婦の本質から、実務上“夫婦として互いに誠実であるべき義務”として整理されてきたものです。
私は、読者の方にこう説明します。
夫婦は、社会的にも法的にも「配偶者」という地位を持つ
その地位を裏切る行為があれば、離婚原因(不貞)や慰謝料の問題に繋がる
だから「浮気」は感情問題で終わらず、法律問題に変わる
そして、ここで大切なのは、相手を裁くための言葉として使うのではなく、
“夫婦とは何か”を理解するための骨組みとして押さえるということです。
ここまで私は、結納→婚約→婚姻という流れを、気持ちではなく、法律の骨組みで整理してきました。
婚約は中間状態で、破棄には責任が生じ得る
結納は法律手続ではないが、揉めたときに争点になり得る
婚姻は、権利と義務が明確に動き出す
夫婦の中核は「同居・協力・扶助」と「生活費の分担」
忠実義務(貞操)は、実務上きわめて重要な争点になり得る




