・法的離婚事由

 ・裁判離婚(判決離婚・和解離婚)は、協議離婚、調停離婚すべてが成立しなかった場合、離婚訴訟を起こし、裁判所が判決をくだします。離婚裁判を起こすには、法的に認められた下記の離婚理由(「法的離婚事由」)がなければなりません

一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。 


離婚原因 民法770条1項5 その他婚姻を継続し難い重大な事由とは?

 民法770条1項5号は、その他婚姻を継続し難い重大な事由があるときを離婚原因として定めています。
でも、この条文だけでは、何が重大な事由になるかよくわかりませんよね。
一般論としては、婚姻が破綻していて回復の見込みがない場合をいいますが、法的には、婚姻が破綻しているかは、主観的要素と客観的要素から判断されます。
そこで一つ一つの事案について実例をもとに説明します。

1、婚姻を継続し難い重大な事由に該当しやすい具体例
(1)相手からの暴力・暴言・侮辱
DV・暴力・虐待
 このDV・暴力・虐待といった枚挙に暇がなく、例えばちょっとしたことに興奮しやすく暴力を振るい灰皿代わりに使っていた茶器で妻の顔を殴打し傷害を負わせるなど、時として常軌を逸した凶暴な振る舞いに及ぶ夫の暴力行為は5号に該当します。(最判昭33・2・25家月10巻2号39頁)
 妻が夫に対し一晩中タオルを持っただけの裸でベランダに放置し子供用の二段ベットで就寝することを強要し、背広やネクタイを鋏で切ったり就寝中にペーパーナイフをもって襲いかかり腕や顔に軽傷を負わせたり水や味噌汁、ミルクの類をかけたりする虐待行為とした(東京高判昭和58・8・4判時1091号89頁)とされます。
 それ以外にも不貞行為した夫が妻をたびたび殴打し「女も子どももあるから出ていけ」などと暴言を繰り返したとしたものもあります。(大阪地判昭48・1・30判時722号84頁)

(2)セックスレス・性的異常
性的不能・性交拒否・性的異常
 夫が性行の途中に妻の靴を取り出して布団の上で履かせ、電灯の明かりの下で性行に応じている妻の態度を眺めつつ放射するなどした場合(大阪地判昭35・6・23判時237号27頁)
 夫婦の性生活において夫の態度が常態でなく約1年半の同居期間中終始変わらない状況にありまた妻が夫は睾丸を切除したけれども夫婦生活に対し影響はないとの医師の言を信じて結婚したがそうではなかった場合(最判昭37年・2・6民集16巻2号206頁)
 夫がポルノ雑誌に異常な関心を示し妻との性交渉に応じようとしない場合(浦和地判昭60・9・10判タ614号104頁)
 夫は見合い結婚をして同居を始めた4月11日から別居した6月18日までの間2か月余りの間一度も性交渉を持たずそのことについて妻にとっても納得ができる対応をせず事態を改善しなかった(京都地判平2・6・14判時1372号123頁)
 妻の性交渉拒否の場合(岡山地津山支判平3・3・29)などが該当します

(3)嫁・姑問題(親族との不和)
配偶者の親族との不和
 姑が嫁に対し「人が食べているとき片づけるものがあるか」「食べるときの口のあけ方が悪い」「姑より先にご飯を食べては駄目だ」「父ちゃんがご飯を食べないで出ていった,お前は俺を好かないんだべ出ていけ」「雪の中で練炭をおこしている、お前はまともなとこが一つもない」など数々の嫁いびりをしたのを知りながら夫が両者を取り持たなかった場合。(盛岡地遠野支判52・1・26家月29巻7号67頁)
 これ以外にも妻の母が夫婦間の生活に介在したからでありそのためにその為に夫婦間に不和・軋轢が生じたものであってその責任は妻の母親との融和に努めなかった夫にも一人娘として母に密着しすぎた妻にもあって夫が主たる有責当事者とはいえないから5号に該当する(東京高判昭60・12・24判時1182号82頁)とされています。 

(4)宗教や信仰上の対立・過度な宗教活動
宗教活動
 妻の自己の宗教活動(ものみの塔)を最優先し夫婦の協力義務や子の監護養育義務を怠り、そのため夫が同居生活に苦痛を感じるようになって婚姻が破たんした場合(名古屋地豊橋支判昭50・10・31判タ334号)
 妻の過度の宗教活動(創価学会)のため夫との精神的共和を失い破綻に至った場合(仙台地判昭54・9・26判タ401号) 
 妻が「エホバの証人」に入信し集会への出席や伝道活動等が信教の自由の範囲を超えている場合(名古屋地判昭64・4・18判タ682号)などが該当するとされています。
 
(5)犯罪行為をして服役している
犯罪行為
 現行民法では、配偶者の犯罪行為それ自体は離婚原因とされていません(旧民法では、配偶者が破廉恥罪等で刑に処せられたことが離婚原因とされていました。)
犯罪行為の内容・軽重・婚姻関係に与えた影響等の諸事情を考慮し、婚姻生活の継続が困難か否かによって5号事由に該当するかが判断されます。 

(6)不労・浪費・債務等
不労働・浪費 
 夫が妻の収入を頼りにして定職に就かず遊惰な生活に流れ麻雀により生活の資を得ようとするなどの行為。(東京高判昭和54・3・27判タ384号)
 夫が確たる見通しがなく転々と職を変え安易に借財に走りそのあげく妻らに借財返済の援助を求めるなど著しくけじめを欠ける生活態度に終始するなどの行為も同様である。(東京高判昭59・5・30判夕532号249頁)とされています。  

性格の不一致と価値観の相違
例:新聞記者で知的生活を好む夫とこれを好まない主婦につき、妻がヒステリー性格に基づく失神を繰り返し夫の求める知的教養を高め内容のある会話をする努力を怠ったことにより破綻した場合(東京高判昭54・6・21判時937号39頁)
 同居3年・5年あまりの夫婦につき、一方は几帳面、清潔好き、他方はその逆で事務処理能力を欠くなど双方の妥協し難い性格の相違から婚姻関係の継続的不和が生じ破綻した場合(東京地裁判昭59・10・17判時1154号107頁)等です。



婚姻を継続しがたき重大な事由の原因はなんでもいい。

 夫婦関係が破綻し関係回復が不可能なとき、裁判所がその事情を個別に検討して離婚を判断します。
呼び名の通り、非常に幅広い解釈ができ、離婚の原因で男女共に1位の「性格の不一致」もこの離婚原因の中に含まれます。
だから理由と原因はなんでもいいです。

 民法770条1項1号から4号までの離婚原因がなくても,その他婚姻を継続し難い重大な事由があるときには離婚請求が可能となります。ここにいう「事由」(以下「5号事由」といいます。)に該当するか否かが問題となるものとして上記を例として書きましたが、「もうこの人と生活が出来ないというもの」は他にもあると思いますので、一度弁護士にご相談くださいい。


・以下つづく