離婚訴訟には明確な理由(原因)が必要となります
裁判離婚(判決離婚・和解離婚)は、協議離婚、調停離婚、すべてが成立しなかった場合は離婚訴訟を起こし、裁判所が判決をくだします。離婚裁判を起こすには、法的に認められた下記の離婚理由(「法的離婚事由」)がなければなりません
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
民法770条1項4号 配偶者が強度の精神病にかかり回復の見込みがないとき
精神病
「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」の意義は、まずは回復の見込みがないとは、不治の病と言うことであり、強度の精神病とは病気の程度が婚姻の本質的効果である夫婦としての同居協力扶助義務(第862条)に違反するほどに重症である状況をいいます
判例に現れた事例では、“統合失調症”が多いといわれています。
強度の精神病とは
精神病離婚の対象となる精神病とは、統合失調症、早発性痴呆症、躁鬱病、偏執病、初老期精神病などの高度の精神病のことです。
-統合失調症-
統合失調症は、幻覚や妄想という症状が特徴的な精神疾患です。それに伴って、人々と交流しながら家庭や社会で生活を営む機能が障害を受け(生活の障害)、「感覚・思考・行動が病気のために歪んでいる」ことを自分で振り返って考えることが難しくなりやすい(病識の障害)、という特徴を併せもっています。
多くの精神疾患と同じように慢性の経過をたどりやすく、その間に幻覚や妄想が強くなる急性期が出現します。
以前は「精神分裂病」が正式の病名でしたが、「統合失調症」へと名称変更されました。
※新しい薬の開発と心理社会的ケアの進歩により、初発患者のほぼ半数は、完全かつ長期的な回復を期待できるようになりました(WHO 2001)。
-早発性痴呆症-
早発性痴呆(そうはつせいちほう)(Dementia Praecox)とは支離滅裂な妄想の拡大による人格の崩壊をひきおこす進行性精神疾患のことです。
-躁鬱病-
双極性障害は、精神疾患の中でも気分障害と分類されている疾患のひとつです。
うつ状態だけが起こる病気を「うつ病」といいますが、このうつ病とほとんど同じうつ状態に加え、うつ状態とは対極の躁状態も現れ、これらをくりかえす、慢性の病気です。
昔は「躁うつ病」と呼ばれていましたが、現在では両極端な病状が起こるという意味の「双極性障害」と呼んでいます。なお、躁状態だけの場合もないわけではありませんが、経過の中でうつ状態が出てくる場合も多く、躁状態とうつ状態の両方がある場合とはとくに区別せず、やはり双極性障害と呼びます。
双極性障害は、躁状態の程度によって二つに分類されます。
・家庭や仕事に重大な支障をきたし、人生に大きな傷跡を残してしまいかねないため、入院が必要になるほどの激しい状態を「躁状態」といいます。
一方、はたから見ても明らかに気分が高揚していて、眠らなくても平気で、ふだんより調子がよく、仕事もはかどるけれど、本人も周囲の人もそれほどは困らない程度の状態を「軽躁状態」といいます。
・うつ状態に加え、激しい躁状態が起こる双極性障害を「双極I型障害」といいます。うつ状態に加え、軽躁状態が起こる双極性障害を「双極II型障害」といいます。
双極性障害は、精神疾患の中でも治療法や対処法が比較的整っている病気で、薬でコントロールすれば、それまでと変わらない生活をおくることが十分に可能です。しかし放置していると、何度も躁状態とうつ状態を繰り返し、その間に人間関係、社会的信用、仕事や家庭といった人生の基盤が大きく損なわれてしまうのが、この病気の特徴のひとつでもあります。
このように双極性障害は、うつ状態では死にたくなるなど、症状によって生命の危機をもたらす一方、躁状態ではその行動の結果によって社会的生命を脅かす、重大な疾患であると認識されています。
-偏執病-
自らを特殊な人間であると信じたり、隣人に攻撃を受けている、などといった異常な妄想に囚われるが、強い妄想を抱いている、という点以外では人格や職業能力面において常人と変わらない点が特徴。
これが日常生活や仕事の遂行に支障をきたすレベルにまで達したものが、妄想性パーソナリティ障害(paranoid personality disorder)とされています。
・被害妄想
挫折・侮辱・拒絶などへの過剰反応、他人への根強い猜疑心(さいぎしん)。自分は特別で何者かに監視、要注意人物と見られていると思う。
・誇大妄想
超人、超越者、絶対者という存在へと発展する。
・激しい攻撃性
誹謗中傷など。弱肉強食というような考えで弱者に対して攻撃的である。
・自己中心的性格
自分が世界の中心ではという妄想で絶対者ではないかという妄想。
・異常な独占欲
独占欲は多数から100%に向かう。独裁者的な妄想を持つ。
・悪魔主義(サタニズム)
悪魔的なものに美しさを見る。
-初老期精神病-
老年期の機能精神障害で主なものに初老期うつ病が挙げられる。通常のうつ病が初老期(45歳〜65歳)になって発症したものであり、退行気うつ病、更年期うつ病ともほぼ同義で扱われている。不安焦燥感や心気症状が強く、この年代に特有かつ深刻な身体的心理社会的要因で発症したうつ病で、老年期うつ病に関しても基本的に同様に考えられている。
そして遷延化・固定化しやすいことが、初老期うつ病に対しての特徴です。
強度の精神病に属さない状況
・ 健康状態と高度の精神病の中間にあるアルコール中毒・薬物中毒・劇物中毒・ヒステリー・ノイローゼなどは精神病には属さないとされている。
植物状態やアルツハイマー病、重度の身体障害、上記のような強度の精神病にあたらない疾病や心身の状態を法定離婚原因として訴訟を提起するには、「婚姻を継続しがたい重大な事由」として扱われることもある。
・精神病離婚の認められる条件
・ 「強度の精神病にかかり回復の見込みがないこと」が必要。この要件を満たすかどうかついては、最終的には医師の診断を参考にして、裁判官が判断することとなります。
-裁判所の見解-
裁判官が判断する際決め手になるのは、夫婦としての精神的な繋がりがなくなり、正常な結婚生活の継続を期待できない程度の重い精神的障害かどうかということ。したがって、医学的に回復不能と判断された場合に限られるものではない。精神病院に入院したからといって、すぐに離婚の請求をしても、まず認められない。
裁判所はさらに、離婚後の療養、生活などについてある程度めどがついた場合でないと離婚を認めるべきでないとしている。
条件
●治療が長期間に渡っている。
●離婚を請求する配偶者が、これまで誠実に療養、生活の面倒を見てきた。
●離婚後は誰が看病するのか、療養の費用は誰が出すのかなど、具体的な方策がある。
精神病者の生活の保障の要件をやや緩和して、離婚の請求を許す傾向にあるといえ、精神病者の実家に療養費の負担をするだけの資力がある上、離婚請求者が過去において配偶者に入院費等を支払い、将来の療養費についても自己の資力で可能な限り支払う意思を表明している事案について、離婚を認め病者の今後の療養、生活等についてできる限りの具体的方途を講じ、ある程度において前途に、その方途の見込みが必要である。
また不治とはいえない精神病の妻に対する本条1項5号による離婚が妻の療養・生活につき具体的方途を講じていなくても認容できるとされた事例がある。
事例
・ 財産分与により、離婚後の療養・生活の不安が除かれたとして離婚を認容した例があります。
・夫が離婚後の妻の生活について福祉事務所に生活扶助の措置を講ずることの了解を得とともに病院から生活保護法上の医療担当機関としての指定を受ける内諾を得たことを考慮して離婚を認容した例がある。
また一切の事情を総合的に考慮してなお結婚を継続させるのが相当と判断される場合には、裁判所は離婚を認めない。
以上の要件を満たさない場合でも、正常な結婚生活の継続を期待できないような事情が認められる場合には、「婚姻を継続しがたい重大な事由があるとき」という別の離婚原因にあたるとして離婚できる場合もあります。
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